地方公共団体の内部統制評価報告書の公表状況調査【静岡県編】
・今回は静岡県を取り上げる。静岡県には、政令市が2つある。駿河湾は桜エビ、また比較的温暖で牧之原のお茶や三ケ日みかんなどが有名である。
駿河湾(桜エビ):https://www.yaizu.gr.jp/sakuraebi/
静岡牧之原茶:https://www.city.makinohara.shizuoka.jp/site/tea/
三ケ日みかん:https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/foodpark/hamamatsu-foods/mikan.html
・静岡県には23市ある。
・各地方公共団体のHPによると、現時点で内部統制評価報告書を公表している市は静岡市と浜松市がある。
§指定都市:静岡市(人口約67万2千人)、浜松市(人口約77万5千人)
Ⅰ.静岡市
・代表社員は静岡市を仕事やプライベートで何度か訪れたことがある。富士山と松林、砂浜で有名な三保松原、徳川家康の終の棲家があった駿府城公園、ちびまる子ちゃんランドなどが有名である。
§三保松原:https://miho-no-matsubara.jp/
§駿府城公園:https://sumpu-castlepark.com/
§ちびまる子ちゃんランド:https://chibimarukochan-land.com/
・HPの上部は、年末に入ったこともあり「2025▶2026年末年始休館日のお知らせ」の静止画像のみであった。
§静岡市役所:https://www.city.shizuoka.lg.jp/
・令和6年度の内部統制評価報告書において、内部統制の評価結果は以下の通りである。
上記評価手続のとおり、ガイドライン及び実施規程に規定する評価作業を実施した限り、評価対象期間中の運用上の重大な不備(3件)を把握した(「附属資料」を参照)ため、本市の内部統制は評価対象期間において一部有効に機能していないと判断しました。
・附属資料に記載されている運用上の重大な不備は以下の通り。
・令和6年度に発生した運用上の重大な不備
ア 情報の誤掲載による広報紙「広報しずおか」8月号の再印刷及び配送遅延について(総務局市長公室広報課ほか1課)
(ア)事案概要
広報紙「広報しずおか」(以下「広報紙」という。)8月号において、記事担当課が、公開してはならない情報を誤って掲載した。
掲載内容を修正する必要があったため、既に印刷が完了し、配送業者に納品済み
であった広報紙の全ページを再印刷することとし、結果として、再印刷や配送に係
る追加経費 4,475,405 円が発生した。
また、広報紙の配送開始が通常より4日間遅れ、合わせて配付する行政文書(チ
ラシ5件・ポスター1件)と市社会福祉協議会広報紙の配送も遅延した。
なお、広報課から各区役所地域総務課への連絡が遅延したことにより、誤情報が
掲載された広報紙2部の所在は不明である。
(イ)原因
a 広報紙に、公開してはならない情報を誤って掲載した原因
(a)記事担当課において、広報紙の掲載記事情報の確認が不足していた。
(b)広報課において、記事担当課に対し確認作業を徹底させることができなかっ
た。
b 広報課から駿河区役所地域総務課及び清水区役所地域総務課への連絡が遅延し
た原因
広報課が作成している配送先の表は、郵送用、文書棚用といったように個別に
なっており、どこからどこに配付されているかが一覧になっていなかった。今回
の緊急連絡は、広報課から公共施設などに送付している配付先の表をもとに行っ
ていたため、印刷業者から直接納品される駿河区役所地域総務課及び清水区役所
地域総務課が連絡から漏れてしまった。
(ウ)再発防止策
a 記事担当課において、市民への情報発信時のマニュアルの遵守及び確実な校正
を徹底するため、課内等で周知をした。
b 広報課において、広報紙への掲載情報の確認不足が生じることがないよう、確
認ルールの見直しを行い、令和6年9月号から適用した。
c 広報紙の配架・郵送先リストを一元化した。
(エ)重大な不備とした理由
本件においては、再印刷や配送に係る追加経費 4,475,405 円が市の回復不能な損
害となり、本市の経済的損失は重大である。
以上を総合的に勘案すると、本件は、重大な不備として評価することが相当であ
ると判断した。
イ 静岡庁舎3階飲食スペース厨房部分の貸付契約締結遅延について(財政局財政部管財課)
(ア)事案概要
令和6年4月から、静岡庁舎新館3階の飲食スペースの厨房部分にA社が出店し
ているが、貸付契約が未締結であった。
また、令和6年4月以降の貸付料(月額 91,000 円)については、契約書を交わしていれば、3か月分をまとめて、7月、10 月、1月、4月のそれぞれにA社から支払われるはずであったが、契約書を交わしていなかったためにそれが行われていなかった。
なお、静岡庁舎新館3階の飲食スペースの厨房部分の貸付けについては、令和3
年度の定期監査において、事業決裁及び仕様書に定める手続の不存在について指摘
を受け、執行管理表を作成して進行管理をするなどの措置を講じたと監査委員に報
告していたが、実際には当該措置が講じられていなかった。
(イ)原因
担当職員が、業務多忙などを理由に契約締結事務を放置していた。
また、令和3年度の定期監査で、本業務の事務手続の不備を指摘された際に「契
約事務の執行管理表を作成し担当者任せにしない体制を整える」としていたが、執
行管理表が作成されておらず、組織としての業務の進行管理ができていなかった。
(ウ)再発防止策
a 令和7年1月下旬に、執行管理表を作成した。
b 令和7年3月下旬に、次回契約更新時の事務処理方法についてまとめた業務マ
ニュアルを作成した。(今後はこの業務マニュアルに従って事務処理していくが、
内容については随時更新していく予定である。)
c 令和6年度から令和7年度にかけての事務引継ぎにおいて、「その他の引継ぎ
事項」に本件事務事業事故についての引継事項を記載した。
d 全庁的な取組としては、定期監査における指摘事項に対する措置を継続的に実
行するための新たな仕組みとして、指摘に対する措置を講じてから次回の定期監
査を受監するまでの間、毎年度、改善措置の実施状況を組織的に確認することと
した。
(エ)重大な不備とした理由
「静岡庁舎新館3階飲食スペース(茶木魚)における厨房部分の貸付け」につい
ては、令和3年度定期監査において、事業決裁及び仕様書に定める手続を行ってい
なかったことを指摘されていた。その際、係長が本件に係る手続を漏れなく確認す
るために、可視化した執行管理表を作成して進行管理を確実に行う旨の措置を講じ
たと報告していた。
本件は、実際にはその措置を講じていなかったがために生じたもので、令和3年
度よりもさらに重大な事態を生じさせていることから、組織における統制環境の不
備は重大であり、本市の社会的信用を著しく毀損するなどの、大きな社会的不利益
を生じさせたものと評価した。
以上を総合的に勘案すると、本件は、重大な不備として評価することが相当であ
ると判断した。
ウ 障がい者共生のまちづくり計画の印刷製本業務に係る納品前の支払い(保健福祉長寿局健康福祉部障害福祉企画課)
(ア)事案概要
令和5年度予算事業である障がい者共生のまちづくり計画(令和6年度~12 年度)の印刷製本業務(市が作成した Word データに基づいて、表紙等のデザインや、本文のレイアウト等を行ったうえで、「本書(1,800 部)」及び「わかりやすい版(2,800 部)」の印刷製本をし、かつ、これらの PDF データを併せて納品する業務。発注日は令和6年3月 26 日。)について、覚知日(令和6年5月 17 日)時点で受注者から納品がされていなかった(本件業務は 100 万円以下の印刷製本業務であるため、契約書の作成は省略している。納期については見積徴取時に添付した仕様書案には令和6年3月 31 日と記載する一方で、担当者が口頭等により令和6年度になっても構わない旨伝えていた。)
納品が完了していない状況にもかかわらず、市の担当者が受注者に対し納品書及びを提出するよう指示をし、納品書等を受領。令和6年3月 31 日付けで検収をし
た旨の公文書を作成した上で、同年5月9日に支払いをした。
(イ)原因
a 令和5年度中に納品されなかった原因
(a)策定スケジュールが後ろ倒しになったこと
令和6年1月1日の能登半島地震を契機として、関係団体から計画内容の見直
しに関する意見が多数寄せられるようになった。これらの意見を全て計画に反映
させることを業務の終点に据え直し、スケジュールの後ろ倒しを重ねた結果、終
点の後の工程に当たる計画冊子印刷業務の進捗管理が抜け落ちてしまった。
(b)具体的な進捗状況の把握が不十分だったこと
スケジュールの後ろ倒しに伴い、業務の発注に係る決裁の起案が課全体で繁忙
となる年度末にずれ込んだ。このため、仕様書に記載した業務のボリュームと納
期の実現可能性について、課長が担当者に口頭等で確認し、十分に点検すべきと
ころ、これができず、業務の困難さに気付くことができなかった。
(c)計画策定年度特有の業務スケジュールを組織的に共有できていなかったこと
計画関連業務は、通常年度と策定年度で大きく異なり、策定年度は3年から7
年に一度の頻度で到来する。このため、業務の引継ぎのために毎年度作成する業
務概要書には策定年度向けの詳細な業務スケジュールが記載されておらず、課長、
係長、担当者で計画冊子印刷業務の詳細な業務スケジュールなどの情報が共有さ
れていなかった。
なお、障害福祉企画課は、令和5年 12 月に課長が替わっており(前課長は休
職)、引継ぎにおける本業務の具体的認識が結果として甘かったことも要因の1
つと思われる。
b 令和6年度に納品されていないにもかかわらず支払いがされた原因
計画冊子の納品がなされていないことを把握できる機会がありながら、担当者に
十分な確認をとらず、支出命令の決裁時は、会計書類が形式的に整っているかどう
かを審査するにとどまっていた。その結果、繰越や契約解除等、適切な対応につな
げることができなかった。
また、担当者には、出納整理期間中の予算の執行について、期間中に書類上の整
合を図ることができれば問題ないという認識の甘さがあり、納品されていないこと
を課長や係長に報告しなかった。
(ウ)再発防止策
a 突発的な事象も想定して進捗管理を行う。課長、係長は契約業務に影響が生じる
突発的な事象が起きた場合、契約内容を変更する検討や事故繰越の検討等、無理な
作業内容を見直し、正しい事務処理を指示する。
b 課長から課員に対し、懸案事項は早期に相談するよう繰り返し声掛けをしている。現状では、グループウェアの予定を見て課内検討スケジュールを入れるようになっている。
c 各係において、係員に対し、一人で抱えず、気になることはその都度、報告・連
絡・相談をするよう指示した。係長は話しやすい環境を整える(日常的な会話の中
でも進捗状況の確認や、担当者個人では気づかない懸案事項などを話題にするよう
にすることで話しやすい環境づくりを進めている。)。
d 係長から係員に半年単位でスケジュールをたてるよう指示し、係長が業務の進捗
管理を行っている(個別確認は随時、係内全体での打ち合わせは最低でも1か月に
1回以上)。スケジュールに遅れがでている業務があれば、係長が応援体制を組み、係で対応するよう指示する。
e 本業務は令和 12 年度に全体見直しがなされる予定。その間、毎年、市附属機関において経過報告等も行われる。全体見直し年度は令和 12 年度であるものの、計画策定年度以外の年度の業務概要書へも計画策定スケジュールを明記し、通常年度の業務概要書にも参考情報として策定年度向けの詳細な業務スケジュールを記載し、毎年度の引継ぎを通じて、前回の策定年度の業務スケジュールとそれに付随する留意事項等の情報を組織的に共有する。
f 実態に即した会計処理審査の徹底。特に支払いが発生する業務についてはダブル
チェックを徹底し、検収者・立会者は確実に納品確認を行い立会者は納品(現物)
確認したことを係長に報告する。係長は納品(現物)を確認する。
(エ)重大な不備とした理由
本件は、地方自治法の会計年度独立の原則に反した処理をしたものであり、その過程において、令和5年度予算で支払いをするために、令和6年3月 31 日時点では計画書は納品されていなかったにもかかわらず、同日付けで検収をした旨の公文書を作成していたことが確認されている。
また、計画書の印刷製本業務を発注した時点(令和6年3月 26 日)で年度内の納品が不可能であることは客観的に見て明らかであり、さらに、支払処理をした時点で計画書が納品されていないことに組織として気が付く余地があったことは否定できないことから、組織における統制環境の不備は重大であり、本市の社会的信用を著しく毀損するなどの、大きな社会的不利益を生じさせたものと評価した。
以上を総合的に勘案すると、本件は、重大な不備として評価することが相当であると判断した。
・評価期間中に把握した過年度に発生した不備に係る重大な不備
ア 目的外使用料等の算定誤り(財政局財政部管財課ほか14課)
(ア)事案概要
複数の所属において、行政財産の目的外使用料又は普通財産の貸付料を誤って算
定し、結果として使用料等を過大又は過少に徴収していた。また、一部の所属は10
年以上算定を誤っていた。
静岡庁舎新館の目的外使用料の算定に当たり、建築面積を誤って設定していたこ
とが発覚したことを契機に、平成25年度から令和5年度までを対象に調査を行った
結果、以下のとおり誤りが発覚した。
a 誤った算定をした所属:15課
b 対象となる相手方:53者
c 市が誤って算定し徴収した金額
(a)徴収不足額 3,887,335円
(b)徴収過大額 2,695,757円
(イ)原因
過年度分の目的外使用料請求に関する資料を調査したが、保存年限経過に伴う文
書廃棄や共有フォルダのデータ消去により、発生時期と発生当初の原因は明らかに
ならなかった。
静岡庁舎については、旧静岡市・旧清水市の合併時(平成15年)に市有財産管理
の制度を再編して一元化された後も、旧静岡市方式での算定を令和4年度まで継続
してしまった。さらに、旧追手町図書館の執務室への転用にあたっては、延べ床面
積と建築価格が適時適切に追加されておらず、設備工事費の建築価格への反映も同
様で、これらが複合して使用料の算定誤りに繋がっていた。
その他施設関係の原因については、①公有財産台帳上の建築面積の誤り、②同じ
く延床面積の誤り、③使用料算定時の年次別建築費指数の誤り、④同じく経年残価
率の誤り、⑤同じく複合施設における算定(共用部分の面積算入)誤りの5つに分
類されるが、実際には複数の原因が絡むものが多かった。
加えて、決裁時に複数の職員を経ながらも誤りが正されなかった、チェック機能
の不全も一因として挙げられる。
(ウ)再発防止策
職員の知識向上や決裁過程でのチェック強化を目的として、財産管理に関する担
当者研修での周知、ならびに財産管理に関する所属長研修での周知を実施したほか、処務事務お助けマニュアルの増補・改訂を継続して行っている。
エ)重大な不備とした理由
本件は誤った処理が多くの部署で発生しているものであり、かつ、そのうち一部
の部署においては誤った処理が長期にわたることから、組織における統制環境の不
備は重大であり、本市の社会的信用を著しく毀損するなどの、大きな社会的不利益
を生じさせたものと評価した。
以上を総合的に勘案すると、本件は、重大な不備として評価することが相当であ
ると判断した。
イ 災害復旧費補助金の国庫補助を申請しなかったことによる市の損失の発生(保健福祉長寿局健康福祉部高齢者福祉課)
(ア)事案概要
災害により被害を受けた社会福祉施設等に対して、国庫補助金を財源の一部とし
て災害復旧費補助金を交付する手続を進めていたが、4つの被災施設のうち、社会
福祉施設A(以下「施設A」という。)について、市が国庫補助制度の対象の可否を判断する際の算定を誤り、国庫補助の対象外であると判断し、市は国への申請を行わなかった。後日、施設Aからの指摘を受け、国庫補助金制度の対象の可否を判断する算定を改めて行ったところ国庫補助の対象であることが判明したが、申請期限が過ぎていたため国への申請はかなわず、施設Aへの補助金交付時期が遅れるとともに、市は国庫補助を受けられないことから、結果として国庫補助金を申請していれば国からの給付が見込まれた4,537,000円が市の財政の損失となった。
(イ)原因
a 直接的な原因
国庫補助対象の可否は、施設が要した復旧事業費用から損害保険金などの復旧
関連の収入を控除し、控除後の金額が国庫補助制度の対象基準額である80万円を
上回るかどうかで判定することとなっていた。しかし、今回は国庫補助対象の可
否を判断するための算定において、損害保険金等の復旧関連収入を確認する際、
被災施設から受領した資料(被災施設が加入する保険会社が作成)の「鑑定金額
(損害保険の鑑定額で施設が要した復旧事業費用額全体に相当)」を見て、それを
「損害保険金」であると誤認し、それに気づかないまま事務処理を完結してしま
った。
b 事務処理誤りを引き起こした背景にある間接的な原因
(a)国への申請前に、被災施設に対し、市が作成した資料の内容を確認すべきと
いう意識やルールがなく、実際にも確認しなかった。
(b)国庫補助対象の候補施設が複数ある場合に、そのうちの1つの施設だけが補
助対象外の施設となることに疑問を持つことなく、組織や仕組みとして、対象
外となる理由を精査すべきという意識やルールがなく、実際にも精査をしなか
った。
(c)市として、初めて激甚災害の指定を受けたため、被災から当該補助金の交付
までの事務等に不慣れで、確認すべき内容や手順をあらかじめ明確にできない
中で事務処理を行った。
(ウ)再発防止策
a 被災施設から受領した資料を基に市が修正・作成した文書について、必ず当該
施設への確認を行い、決裁時に当該施設が文書を確認済みであると確認できるメ
ール等を添付する。
b 国庫補助対象の候補施設のうち、補助対象外の施設と判定した場合には、理由
を再度精査する。
c 上記をルール化するためのマニュアルやチェックリスト(補助制度の対象外と
した場合にも対象外とした根拠を入念に確認できる作業手順等)の雛形等を作成
し、再度補助金対応が発生した場合に備えた引継ぎを確実に行う。
(エ)重大な不備とした理由
本件は、本来であれば本市が施設Aに対して交付した補助金6,482,000円のうち、4,537,000円は国からの補助金を充当できたはずが、この交付が受けられなくなったもので、4,537,000円が市の回復不能な損害となり、本市の経済的損失は重大である。
以上を総合的に勘案すると、本件は、重大な不備として評価することが相当であ
ると判断した。
ウ 介護保険の過大給付(保健福祉長寿局健康福祉部介護保険課、葵区役所葵福祉事務所高齢介護課、駿河区役所駿河福祉事務所高齢介護課、清水区役所清水福祉事務所高齢介護課)
(ア)事案概要
市は、介護保険の被保険者が介護保険サービスを利用した際の費用のうち、被保
険者の自己負担額(被保険者の負担割合及び負担限度額(以下「負担割合等」とい
う。)に応じた金額)を除いた額を、サービス事業者に保険給付している。
負担割合等は、前年の世帯所得等に基づいて判定を行い、修正申告等により所得
の変更があった場合には、判定した年度の8月1日に遡って負担割合等の再判定を
行う必要がある。
市が負担割合等を判定するに当たり、次のとおり誤った運用をしていたことによ
り、過大給付が発生した。また、給付額の一部は国及び県等の負担金を財源として
いるため、過大に給付した額のうち、国及び県等の負担金を財源とするものについ
て返還することとなった。
a 負担割合
過年度の所得更正に伴う負担割合の再判定は、5年分を遡及して行うべきとこ
ろ、2年分のみ遡及しており、本来遡及すべき他の期間分の処理を行っていなか
った。
これにより、被保険者 45 人分の介護保険給付を、11,180,586 円過大に給付し
ていた。
b 負担限度額
修正申告等による所得の変更に伴う負担限度額の再判定をした際、変更があっ
た月の翌月分から負担限度額を変更していた。
また、負担限度額の再判定は5年分を遡及して行うべきところ、これを行って
いなかった。
これにより、被保険者 64 人分の介護保険給付を、7,812,913 円過大に給付して
いた。
(イ)原因
a 介護保険課における原因
平成 27 年度介護保険制度改正により、利用者負担割合に「2割」が創設され、前年度の所得金額に応じて負担割合を判定することとなった。
それに伴い平成 27 年 7 月 13 日に厚生労働省から発出された通知には、過年度分
の所得が更正された場合の遡及期間の取扱いが示されているが、担当者、係長とも
に細かく確認していなかったため、運用の見直しや介護保険システムの税情報等の
システム改修を行っていなかった。
また、平成 30 年度、利用者負担割合に「3割」が創設されたが、その際も運用の見直しやシステム改修を行っていなかった。そして、令和3年7月5日及び令和4年3月 31 日に国から遡及期間の取扱いについて記された通知が発出されていたが、担当者、係長ともに通知を見逃し、慣例のままの事務を行っていた。
b 各福祉事務所高齢介護課における原因
国通知(介護保険最新情報)を見落とし、制度理解が不足したまま事務を行って
いた。
また、婚姻等により世帯状況に変更があった場合は、事実があった翌月から認定
を変更するため、修正申告による負担限度額の認定の変更においても、同じ運用で
よいと誤認していた。
(ウ)再発防止策
a 介護保険課における再発防止策
(a)今後は、国通知の内容、運用変更点等について担当者及び係長の複数名による確認を徹底し、介護保険制度の改正時は、介護保険課、各福祉事務所高齢介護課
及びシステムメンテナンス業者により制度理解、情報共有のための連絡会を開催
する等、それぞれの事務処理において異なる立場から再確認を行う。
(b)制度改正に伴うシステム改修について、システムメンテナンス業者と調整・確認の上、改修を着実に行う。
(c)根拠、運用を示したマニュアル等を整備する。
b 各福祉事務所高齢介護課における再発防止策
(a)国通知の内容、運用変更等について、担当者及び係長の複数名による確認を徹底する。
(b)定期的に介護保険課、各福祉事務所高齢介護課及びシステム業者により制度理解、情報共有のための連絡会を開催する。
(c)根拠、運用を示したマニュアル等を整備する。
(エ)重大な不備とした理由
本件において、市は、市民に対し過大に給付した 18,993,499 円の返還を求めず、他方で国、県及び社会保険診療報酬支払基金から過大に受給していた負担金は全て返還するため、18,993,499 円が市の回復不能な損害となり、本市の経済的損失は重大である。
また、本件は、平成 30 年度以前にも誤りがあったと推測されるものの、税情報が残っておらず、遡及して確認する術がないことを踏まえると、誤りのあった期間は長期にわたるといえ、このことも相まって市に多額の損失を与えたことを考慮すると、組織における統制環境の不備は重大であり、本市の社会的信用を著しく毀損するなどの、大きな社会的不利益を生じさせたものと評価した。
以上を総合的に勘案すると、本件は、重大な不備として評価することが相当であると判断した。
エ 令和元年度診療材料購入契約における不適切な事務処理について(保健福祉長寿局清水病院事務局病院経営企画課)
(ア)事案概要
令和元年 11 月から 12 月にかけて、清水病院において、平成 31 年4月1日に 30
者と締結した診療材料の単価購入契約について違法又は不当な一部変更契約手続が
行われた。これにより、A社が、診療材料単価の入札にあたり最低見積価格を提示
していた品目について、入札の妨害により別のディーラー会社が契約先となったた
め、A社の売上げが減少した。
当該変更契約手続を行った元職員は、入札等の公正を害すべき行為を行ったもの
などとして静岡地方検察庁に起訴され、有罪が確定した。
(イ)原因
前提として、本件は、元職員による非違行為が原因であるが、その背景において、病院施設課(当時)の事務処理に、次のような問題点があったため、元職員による非違行為を防ぐことができなかった。
a 見積執行において、見積参加者からエクセルシートにより見積書を受領してい
たこと
本市が作成している「見積心得」において、「見積参加者は、案件ごとに見積書
を作成し、次のとおり表示した封筒に入れ、指定した場所へ提出」するとされて
おり、見積者は、書面により押印した見積書を提出することとされている。
しかし、病院施設課(当時)による診療材料の購入に係る見積執行では、品目
数が多いという理由から、慣例により品目ごとに見積金額を記入したエクセルシ
ートを電子媒体で提出することとしており、見積参加者による押印も不要とされ
ていた。
b 不適切な内容の決裁が承認されていたこと
元職員が作成した起案文書は、変更契約と称して新たに見積執行を行い一部の
診療材料において単価契約を変更し、又は契約相手先を変更しようとするもので
あった。
本来、新たに見積執行を行うのであれば、契約相手方との合意による契約解除
を行うべきところ、本件においては、契約相手方との契約解除合意書は存在していない。また、契約期間内は、契約単価の見直しは行わないこととしていること
から、本件において、見積執行によって契約単価等を変更することはおよそ認め
られるものではないが、当該起案文書は所属長等によって承認され、変更契約が
締結されていた。
c 複数人による見積金額の確認を怠っていたこと
見積参加者から示された見積金額の確認は、病院施設課(当時)において、複
数人の職員で確認する決まりとなっていたが、これを怠っていた。
(ウ)再発防止策
a 令和4年度から紙の見積書を基本とし、エクセルシートと併せて受領をするこ
とに変更する。今後さらに紙の見積書については、記名・押印、袋とじを行い、
エクセルシートと併せて受領することとする。
b 今後は変更契約を実施する場合、担当課長から病院経営企画課長に対して内容
の説明を行い、合議を得たうえで担当課長が決裁をすることとする。
c 複数職員による見積書の所属長の面前開披を行った上で、システムへの見積金
額の投入を行う。
(エ)重大な不備とした理由
本件において、当時事務処理を担当した元職員は、入札談合等関与行為の排除及
び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反によ
り有罪判決を受けている。
また、担当していた元職員のみならず、本件に関与した職員においては、違法な
結果の発生を予見し、これを防止すべきであったにもかかわらず、それをしなかっ
たものであり、組織における統制環境の不備は重大であり、本市の社会的信用を著
しく毀損するなどの、大きな社会的不利益を生じさせたものと評価した。
以上を総合的に勘案すると、本件は、重大な不備として評価することが相当であ
ると判断した。
オ 源泉所得税に係る税務調査による追徴について(保健福祉長寿局清水病院事務局病院経営企画課)
(ア)事案概要
令和6年7月に静岡市立清水病院に対して行われた静岡税務署による「源泉所得
税に係る税務調査」の結果、以下の指摘を受け、追徴税 21,761,922 円のほか、不
納付加算税 2,098,000 円及び延滞税 504,800 円が課されることとなった。
a 前職歴のある職員のうち前職分の源泉徴収票を提出していない職員の年末調整
を行うことはできないが、誤って行っていた。
b 課税対象となる借り上げ住宅家賃の月額の半額を超える病院補助分は月ごと源
泉徴収すべきところ、年末調整時に一括して源泉徴収していた。
c 控除上限額を超えた住宅ローン控除の申告誤りや、扶養親族の除外忘れにより
扶養控除額の計算を誤っていた。
(イ)原因
a 年末調整制度について職員の知識及び理解が不足していた。
b 誤った制度理解が引き継がれ、前例踏襲で年末調整を実施していた。
c 年末調整で職員から提出される書類の処理を紙ベースで行っており、限られた
期間内に職員約 700 人分の年末調整を実施するには事務処理体制が不十分であっ
た。
(ウ)再発防止策
年末調整事務のマニュアルに「前職分の源泉徴収票が提出されない職員は年末調
整できない」ことを追記した。また、令和6年の年末調整事務の実施にあたり、職
員係内で税務調査官からの指摘事項について周知し複数の職員によるチェック体制
をとった。
令和7年度中を目途に、会計処理ソフトを導入し、紙の申告書による年末調整事
務の電子化を進める。
(エ)重大な不備とした理由
財務等に関する「報告の信頼性の確保」は内部統制の目的の1つであるところ、
本件において、結果的に納税をしていなかった所得税額は 21,761,922 円で、その金
額の大きさから、本件は本市の報告の信頼性を大きく損ねたものである。
また、本市にとっても税は、歳入の基幹であり、日頃から市民に対して適正な納
税を求めているところ、市が納税を怠り、不納付加算税等を賦課されたことは市民
の不信を招くものであって、本市の社会的信用を著しく毀損するなどの、大きな社
会的不利益を生じさせたものと評価した。
以上を総合的に勘案すると、本件は、重大な不備として評価することが相当であ
ると判断した。
カ 給与(給料及び手当)の不適正受給について(消防局)
(ア)事案概要
消防局の職員Aは、平成 29 年4月1日から令和5年9月 20 日までの間に、延べ
756 回の深夜勤務に従事すべきところ、458 回しか従事していなかった。
これにより、職員Aは深夜勤務 298 回分、602 時間分の給料及び各種手当、総額
3,885,047 円を不適正に受給していた。
(イ)原因
深夜勤務の交替を出張所のみで行っており、消防署(本署)など出張所以外の場
所で実態を確認(把握)できる体制が整備されていなかった。
(ウ)再発防止策
a 出張所の夜間勤務の当番表を事前に消防署(本署)と共有するとともに、実際
に交代した後に、出張所から消防署へ電話連絡することで、当番表どおりに、勤
務交替が行われたことをダブルチェックする体制を整備した。
b 消防局長から、「綱紀粛清及び服務規律の徹底について」各所属長に通知し、朝礼や夕礼、所属内ミーティング等のあらゆる機会を通じて、全ての所属職員に確実に周知・徹底することを指示した。
(エ)重大な不備とした理由
本件において給与等を不適正に受給していた職員Aは、令和6年7月 19 日付け
で懲戒処分(停職6か月)を受けている。
また、当該事案に関して本市消防局は謝罪会見を開き、報道機関によって広く報
じられている。
さらに、職員Aの不適正な行為は消防局職員からの投書により発覚したものであ
るが、当該不適正な行為は平成 29 年度から続いており、発覚までの間、周囲の職員は、少なくとも職員Aが本来勤務をすべき時間に仮眠をとっている事実を黙認していたことを踏まえると、組織における統制環境に重大な不備があったことも明白であり、本市の社会的信用を著しく毀損するなどの、大きな社会的不利益を生じさせたものと評価した。
以上を総合的に勘案すると、本件は、重大な不備として評価することが相当であ
ると判断した。
キ 消費税の修正申告に伴う延滞税の発生について(上下水道局経営管理部上下水道経理課)
(ア)事案概要
過年度の消費税の申告において、課税区分を「不課税」として処理していた共益
費を含む一部の取引(※)について、静岡税務署の見解を確認したところ、原則は
「課税」として処理すべきであり、特に、売り手側と買い手側の課税区分の取扱い
が異なるのであれば、それは消費税申告上の誤りであるとのことであった。
平成 30 年度から令和4年度まで(令和2年度を除く。)の当該取引の課税区分を
「不課税」から「課税」に修正申告することで、追加で納税した消費税額及び延滞
税は 15,540,500 円(うち、延滞税は 389,900 円)で、反対に還付を受けた消費税額は 85,572,300 円であった。
※ 該当する取引は、次のとおり。
a 上下水道局庁舎テナントへ請求する共益費(電気料等)
b 下水道事業へ請求する水道料金・下水道使用料賦課徴収に係る負担金
c 下水道事業へ請求する電算機器リース料負担金
(イ)原因
a 課税区分を変更した際に、所属のみで判断してしまった。
b 消費税の納税計算という企業会計特有の業務にもかかわらず、マニュアル等の
十分な整備がなく、伝票起票者及び審査担当者の消費税の課税区分の認識が不足
していた。
(ウ)再発防止策
a 課税区分を変更する際は職員で判断せず、必ず税務署に相談する。
b 水道事業及び下水道事業で取り扱う収入の課税区分について、マニュアル(「消
費税課税区分分類表」(静岡税務署確認済))を作成し、局内各課へ消費税の課税
区分の周知徹底を図る。
(エ)重大な不備とした理由
財務等に関する「報告の信頼性の確保」は内部統制の目的の1つであるところ、
本件において、追加で納税した消費税額は延滞税を含めて 15,540,500 円、還付を受けた消費税額は 85,572,300 円で、その金額の大きさから、本件は本市の報告の信頼性を大きく損ねたものであり、本市の社会的信用を著しく毀損するなどの、大きな社会的不利益を生じさせたものと評価した。
以上を総合的に勘案すると、本件は、重大な不備として評価することが相当であ
ると判断した。
§静岡市役所内部統制:https://www.city.shizuoka.lg.jp/p000301.html
Ⅱ.浜松市
・代表社員は浜松市を仕事やプライベートで何度か訪れたことがある。ウナギで有名な浜名湖、徳川家康の居城であり「出世城」と言われる浜松城、浜名湖パルパル(遊園地)などが有名である。
§浜松・浜名湖観光情報サイト:https://hamamatsu-daisuki.net/
§浜松城公園:https://www.entetsuassist-dms.com/hamamatsu-jyo/
§浜名湖パルパル:https://pal2.co.jp/
・HPの上部は、「住むならやっぱり浜松!」、「天竜川・浜名湖地域12市町村合併20周年記念事業」、「中山間地域の愛称について」などのスライドショーとなっていた。
浜松市役所:https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/
・令和6年度の内部統制評価報告書において、内部統制の評価結果は以下の通りである。
上記評価手続のとおり、ガイドラインに規定する評価作業を実施した結果、次のとおり運用上の重大な不備を把握したため、本市の内部統制は、その一部が評価対象期間において有効に運用されていないと判断いたしました。
| 【運用上の重大な不備】 | 国庫補助金の交付申請手続きの不備 |
当該不備を除く事務に係る内部統制は、評価基準日において有効に整備され、かつ評価対象期間において有効に運用されていると判断いたしました。
・なお説明資料において、重大な不備の内容及び是正状況が記載されている。
| 所属 | 健康福祉部障害保健福祉課 |
| 業務名 | 医療的ケア児等支援事業及び保育所等巡回支援事業 |
| 件 名 | 国庫補助金の交付申請手続きの不備 |
| 概 要 | 医療的ケア児等支援事業及び保育所等巡回支援事業に係る国庫補助金の交付申請手続きに不備があったことから、国庫補助金 535 万 6 千円の交付が受けられなくなりました。 |
| 不備が発生した背景、原因 | |
| ・国庫補助金のメニューが再編され、所管が厚生労働省からこども家庭庁に移行したことに伴 い、国からの補助金に関する情報伝達の経路が変更されました。この変更に対し、庁内での情 報共有体制が十分に整備されていなかったため、関係部署間の連携が不足し、必要な情報が適 切に伝達されませんでした。 ・補助金交付申請業務に関する役割分担が明確でなく、制度に対する理解も不十分であったこと から、交付スケジュールの把握や進捗管理が適切に行われませんでした。これらの要因が重な り、結果として交付申請の機会を逃す事態となりました。 |
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| 不備の是正に関する事項 | |
| (1) 組織的な情報共有体制の構築 ・こども家庭庁所管の補助金に関する情報を庁内で確実に共有するため、関係部署間の連絡体 制を再構築します。 ・補助金交付要綱の収受時には、関係する全ての部署の担当者(各 2 名以上)に情報提供を行 います。また、情報提供の状況を記録し、確実に伝達されたことを確認します。 (2) 役割分担の明確化、進捗管理の徹底 ・補助金交付申請業務に関わる担当者を明確に定め、役割分担とフォロー体制を整備します。 また、制度の詳細や正しい事務処理の流れについて、理解を深めます。 ・補助金関連業務について管理表を作成し、補正予算の時期等、重要なタイミングで定期的に 進捗状況を確認します。 ・予定された時期に情報が届かない場合は、自発的に国や県へ問い合わせる体制を整えます。 |
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浜松市役所内部統制:https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/shise/shisaku/naibu/index.html
以下、次号。
